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【代表コラム】第3回目 共生の未来:心理的脅威の克服 「接触」と「交流」の積み重ねが、やがて「脅威」を「信頼」に変えていく
PERSOL Global Workforce代表取締役社長 多田盛弘

コラム
2025年12月22日
【代表コラム】第3回目 共生の未来:心理的脅威の克服 「接触」と「交流」の積み重ねが、やがて「脅威」を「信頼」に変えていく

はじめに:岐路に立つ共生社会

総務省が住民基本台帳に基づいて発表(2025年8月)した日本の人口は、2025年1月1日時点の日本人は1億2065万3227人で前年から90万8574人減ったことが分かった。16年連続のマイナスで、前年比の減少幅は調査を始めた以来、最大という結果だった。
一方、外国人は11%増えて367万7463人となり、初めて350万人を超え13年以降で最多となった。新型コロナの影響もあったものの、入国が可能となった2023年から再び増加し、増加幅が過去最大の35万4089人という結果になった。ただ、日本人の減少幅は外国人の増加を上回ってしまい、総人口は前年より55万4485人減った。これは、1年で鳥取県を超える規模の人口が減ったことになる。

ここで、外国人人口の増加がなかったとしたら、人口減少はさらに加速化したことに違いない。彼らはもはや単なる「労働力」ではなく、地域社会を維持し、未来を共に創る「パートナー」となりつつある。

しかし、この急激な変化は、地域社会に新たな摩擦を生み出している。言葉や文化の違いから生じる誤解、あるいは「仕事を奪われる」といった漠然とした不安が、一部で排斥の機運を高めているのも事実だ。

2025年7月の参議院選挙でSNSに最も投稿された政策争点は「外国人政策」で、教育やコメ問題を大きく上回った。※1 その後も日本における外国人に関する問題は議論が続き、東北の山形県長井市も対象となったJICAのアフリカ・ホームタウン構想は撤回を余儀なくされた。近年、欧米諸国でも労働力の確保や難民の受入れを背景に、移民人口が拡大しており、多くの国で共生への考え方が世論を二分している。

我々は今、この「異質な存在」を脅威と捉えて拒絶するのか、それとも未来への希望と捉えて共に歩む道を選ぶのか、その重大な岐路に立たされている。

本稿では、社会心理学の理論を羅針盤とし、日本が直面する現実のデータに基づきながら、外国人労働者との真の「共生」を実現するための具体的なアクションを提言する。目指すのは、単なる労働力の確保ではない。多様性を受け入れ、それを力に変えることで、日本が新たな豊かさと活力を手に入れるための、実践的な処方箋である。

※1 朝日新聞 2025年7月20日 43万件の投稿を独自に分析 参院選までの1カ月、SNSの傾向は?

第1章:なぜ「排斥」は生まれるのか?脅威を生む心理的メカニズム

外国人労働者の増加に対し、地域住民が警戒心や反感を抱くのはなぜだろうか。それは単に個人の性格が悪いから、あるいは差別的だからという単純な話ではない。人間の心に深く根差した、普遍的な心理メカニズムが働いていることを理解することが、問題解決の第一歩となる。ここでは心理的メカニズムを説明する二つの理論を紹介する。

1. 「脅威」が引き起こす心の壁:統合脅威理論

人間は、自らの集団が何かしらの「脅威」に晒されていると感じると、強い防衛反応を示す。社会心理学者のウォルター・G・ステファンが提唱した統合脅威理論 ※2 は、この脅威を4種類に分類している。

  1. 現実的脅威: これは、自分たちの仕事、経済的利益、安全といった物理的なものが脅かされるという恐怖である。日本人の文脈で言えば、「安い賃金で働く外国人に、自分たちの仕事が奪われるのではないか」「社会保障費が外国人にも使われ、自分たちの負担が増えるのではないか」といった不安がこれにあたる。
  2. 象徴的脅威:これは、自分たちが大切にしてきた文化、価値観、言語、生活様式といった、目に見えないものが脅かされるという恐怖である。「地域の祭りや伝統が、外国人が増えることで廃れてしまうのではないか」「日本語が通じない人が増えて、コミュニケーションが取れなくなり、地域の連帯感が失われるのではないか」といった懸念がこれに該当する。これは、自らのアイデンティティが揺らぐことへの根源的な不安と言える。
  3. 集団間不安:他集団のメンバーと交流する際に「拒絶されたらどうしよう」「馬鹿にされるかもしれない」といった不安や気まずさを感じる、感情的な脅威である。「外国人と話すとき、相手に変に思われてしまうのではないか」という懸念、このような不安によって引き起こされる感情は、外国人を嫌悪する原因となる可能性がある。
  4. 負のステレオタイプ:「あの国の人々は犯罪率が高いというニュースを見たから、関わると危険だ」というように、一部の情報を元に集団全体に対して抱く否定的な固定観念(ステレオタイプ)が、交流への恐怖を生む脅威である。このように、ある集団に属する人の属性が、集団全体の特徴とするような認知プロセスの一例である。

※2 Stephan, W. G., & Stephan, C. W. (2000). An integrated threat theory of prejudice. In S. Oskamp (Ed.), *Reducing prejudice and discrimination* (pp. 23–45). Lawrence Erlbaum Associates.

2. 「ウチ」と「ソト」を分ける心:社会的アイデンティティ理論

人は誰でも、自分が所属する集団(内集団)に愛着を持ち、その一員であることに誇りを感じたいという欲求を持っている。これを社会的アイデンティティ理論 ※3 と呼ぶ。そして、この「ウチ(内集団)」の結束を高める最も簡単な方法が、「ソト(外集団)」、つまり自分たちとは異なる集団を区別し、時には見下すことなのだ。

青森県は、津軽、南部、下北といった地域ごとに独自の文化や方言が色濃く残り、地域への帰属意識が強い土地柄といえる。この郷土愛は、地域の誇りや文化の継承といった面で大きな力となる一方、状況によっては「ソト」から来た人々、すなわち外国人に対して過剰な警戒心や排他性を生む土壌にもなり得る。「よそ者は信用できない」という感覚は、この心理メカニズムの表れと言えるだろう。

さらに、人口減少、高齢化、経済の停滞といった、解決が難しい大きな問題に直面したとき、人々は強いストレスや不安を感じる。こうした複雑な問題の原因を、分かりやすい特定の対象に押し付けて非難することで、一時的に心の平穏を得ようとする心理が働く。これが「スケープゴート化」だ。

「最近、景気が悪いのは外国人が増えたせいだ」「地域の活気がなくなったのは、よそ者が増えたからだ」といった言説は、まさにこの心理の表れである。問題の本質的な原因(例えば、構造的な経済問題や人口動態の変化)から目をそらし、外国人という目に見えやすい対象を攻撃することで、溜まった不満を解消しようとしているのだ。

これらの心理メカニズムは、誰の心の中にも潜んでいる。だからこそ、排斥的な言動を単に「無知」や「偏見」として切り捨てるのではなく、その背景にある人々の「不安」や「恐怖」に寄り添い、それらを和らげていくアプローチが不可欠なのである。

※3 Tajfel, H., & Turner, J. C. (1979). An integrative theory of intergroup conflict. In W. G. Austin & S. Worchel (Eds.), *The social psychology of intergroup relations* (pp. 33–47). Brooks/Cole.

第2章:対立から協調へ取るべきアクション

第2章:対立から協調へ取るべきアクション

排斥の心理が「脅威」「区別」「不安」から生まれるのであれば、私たちが取るべきアクションはその逆、すなわち「安心」「交流」「希望」を育むことだ。社会心理学の知見は、そのための具体的な道筋を示してくれる。

社会心理学の知見に基づく、最も強力な偏見解消法は、異なる集団の人々が直接触れ合うことだ。しかし、ただ単に同じ空間にいるだけでは、かえって対立を深めることさえある。心理学者ゴードン・オールポートが提唱した接触理論 ※4 は、質の高い接触には「対等な立場」「共通の目標」「協力」「公的な支持」という4つの条件が重要だと説く。

この理論は、筆者の現場経験とも一致する。筆者は2020年から2023年まで、厚生労働省の「地域外国人受入れ・定着モデル事業」の責任者として、多くの地域で外国人の地域定着を目的として、地域住民と外国人の交流パイロット事業を複数地域で実践した。

外国人の居住が増え始めた地域に住む日本人への聞き取りでは、地域の日本人が「外国人が増えたが、接点がなく怖い」、「ごみ捨てなどのマナーを守ってもらえるか心配」など、前述した脅威を感じていることが確認されたため、これら脅威の解消のための「接触」を増やすために同事業では地域住民の交流とイベントを実施した。イベントは目的ごとに大きく分けて以下の二つに分類することができる。

大規模な地域のイベント
→「接触」の量の拡大
不特定多数の日本人や外国人材がイベントを通じて異文化を体験する。
小規模な地域のイベント
→「接触」の質の向上
外国人材の居住地域周辺の住民との直接的な交流により、双方が顔を合わせ、互いの文化を理解する。

大規模な地域イベントは、日本人の参加者が多く、日本人が海外の文化に触れ理解を深める効果が高いが、イベント後も継続するような日本人と外国人材の深い関係を作ることは難しかった。むしろ、既に共生に関心のある層が参加する傾向があり、本来アプローチすべき「脅威を感じている層」には届きにくいという課題があった。つまり、このようなイベント型の交流で「接触」の量は拡大するが脅威を感じている層への訴求が弱く、心理的な脅威の軽減への効果は限定的であったといえる。

一方、小規模な地域イベントは、自治会レベルでのイベントで少人数の参加しかないため、個々のイベントの効果範囲=「量」は大きくないものの、地域住民と外国人材がより深い関係性を築くことができた。接触理論では「対等な立場」「共通の目標」「協力」「公的な支持」が重要と述べており、この小規模イベントでもこの理論に踏襲するような仕組みで実施した。

「対等な立場」
地域のイベント参加として、地域の日本人(子どもも含む)と同様に地域のコミュニティメンバーとして参加
「共通の目標」
地域の綱引き大会、クリスマスのイルミネーションつくり、祭りなど、協働が必要なイベントでの交流
「協力」
地域の日本人と協力して上記イベントを実施
「公的な支持」
町内会や市町村など、地域の公的な機関が支援

このような質の高い接触のあと、地域の外国人が、イベントで知り合った地域住民に助けてもらえることが増えたとの回答が得られた。また、日本人も外国人への脅威が減ったとのアンケート結果が確認できた。

※4 Allport, G. W. (1954). *The nature of prejudice*. Addison-Wesley.

第3章:対立を生む課題:インバウンドとネットでの「接触」

第3章:対立を生む課題:インバウンドとネットでの「接触」

このように一定の条件を伴った接触が脅威を減らす一方で、条件が不十分な接触が脅威を増大させることが、接触理論では示唆されている。参議院選挙以降、外国人に対する偏見や排他感情が大きくなっている背景には、二つの不十分な条件の接触が挙げられる。

ひとつ目がインバウンドの増加である。外国人観光客は新型コロナ時期から急回復しており、2024年には年間3687万人の過去最高となっている。これだけの観光客が訪れると、オーバーツーリズムによる地域生活の影響や一部の観光客のマナー違反も目につくようになり、「現実的脅威:実生活への脅威」、「象徴的脅威:文化への脅威」が増大する。

もうひとつが、ネット情報による接触である。ネットの特色であるフィルターバブルとエコーチャンバー現象により、外国人の偏った情報の取得=「接触」が偏見を生む土壌となりえる。フィルターバブルは、SNSなどがアルゴリズムにより個人の嗜好にあった情報を提供することで、エコーチャンバー現象とは、ネット上の同じような意見を持った人たちで意見が先鋭化される現象である。これらネット特有の接触が外国人に脅威を感じている人々のそれを増大させてしまう可能性が高い。例えば、犯罪数や起訴率は、警察庁の統計(警察白書)によれば日本人と比して特に高くないにもかかわらず、ネット上で特定の事件が繰り返し拡散され、同じ意見の人たちが脅威を語ることにより、ますます外国人への脅威が増大してしまう。

第4章:選ぶべき未来

日本が直面する人口減少という大きな波は、もはや避けることができない現実だ。しかし、単に労働力や観光客として外国人を受け入れるだけでは、不十分な接触から日本人と外国人の共生は実現せず、対立が増加してしまう。この現実を前に、私たちは外国人を地域の未来を共に担う「パートナー」として迎え入れ、多様性を力に変えていく「共生」の道を模索しなければいけない。

本稿で提案したアクションは、人間の心の働きを科学的に解き明かした社会心理学の理論に裏打ちされた、現実的で実践可能な処方箋である。祭りの準備で共に汗を流すこと、地域で同じ目的に向かって協力すること、そうした一つ一つの小さな「接触」と「交流」の積み重ねが、やがて「脅威」を「信頼」に変えていく。

もちろん、その道は平坦ではないだろう。ネットの影響は大きく、負のステレオタイプを増大させる情報は飛び交うかもしれない。しかし、現実の関係性はネットからではなく、人と人との繋がりから生まれるのである。コミュニティ外の存在に脅威を感じるのは、ある意味で自然な心理反応である。だからこそ、その心理を理解した上で、現実における適切な接触の機会を設けることが重要といえる。国や自治体やこのような現実的な施策を後押しすべきであるし、私たち日本人はネット情報に流されない現実に根差した思考や行動が求められる。

私たちが「排斥」の壁を乗り越え、「共生」という新たな豊かさをいかに育むかに、この国の人口減少社会の未来がかかっていると言っても過言ではないだろう。

政府開発援助の事業を中心に、過去20年間30か国以上で、コンサルタントとして産業開発、人材育成、保健医療、教育など多様な分野での事業実施経験をもち、2018年は外務省の政府開発援助に関する有識者懇談会の委員を務める。

国内では経済産業省の日本企業の新興国市場開拓補助事業や農林水産省の地方創生事業、厚生労働省「「地域外国人材受入れ・定着モデル事業」」の実施責任者を担う。「令和5年度 厚生労働省 海外からの介護人材の戦略的受入れのための有識者意見交換会」の有識者委員も務め、外国人材採用の領域において幅広い知見と経験を有する。

PERSOL Global Workforce株式会社 代表取締役社長 多田 盛弘(タダ モリヒロ) PERSOL Global Workforce株式会社
代表取締役社長
多田 盛弘(タダ モリヒロ)
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