事例・​お役立ち情報

PERSOL Global Workforce代表が答える。外国人材採用のアレコレ1回目
技能実習から育成就労へ――日本の外国人材受け入れはどう変わる?現場への影響は?

コラム
2026年3月5日
PERSOL Global Workforce代表が答える。外国人材採用のアレコレ1回目

はじめに

2024年6月、「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律 」が公布され、約30年にわたって運用されてきた技能実習制度が発展的に解消されることが決定しました。そして2027年4月、新たに「育成就労制度」がスタートします。

この制度変更は、実はかなり大きい意味を持ちます。外国人材の権利保護、企業の受け入れ体制、そして日本社会全体の外国人との共生のあり方に至るまで、根本的な発想の転換を伴う変更であります。しかし、運用方針の詳細を検証すると、理想と現実の間にはギャップが存在するのも事実です。

技能実習制度と育成就労制度の比較表

技能実習制度と育成就労制度の比較表

制度変更の背景

技能実習制度は1993年に創設され、「国際貢献」を建前として開発途上国への技能移転を目的としてきました。しかし実態は、労働力不足に悩む日本の中小企業が「安い労働力」を確保する手段として機能してきた側面が否めないです。育成就労制度の最も重要な変更点は、制度目的を明確にしたことにあります。技能実習制度の「国際貢献」という建前を捨て、「我が国の労働力不足分野における人材の育成・確保」を掲げています。

3年間の就労を通じて「特定技能1号水準の技能を有する人材を育成する」ことが「育成就労」制度の核心です。つまり、育成就労は特定技能制度への入口として設計されており、最長で「育成就労3年+特定技能1号5年+特定技能2号(制限なし)」という、外国人材の長期的なキャリアパスが構築されたとも言えます。

この変更により、外国人材は「いずれ帰る、臨時の安い労働力」ではなく、「長期にわたって産業を支える人材」として育成される対象になり得ます。受け入れる企業にとっても、短期的な労働力確保ではなく、中長期的な人材投資としての視点が求められることになります。

最大の変革―転籍制限―とその限界

育成就労制度で最も注目されるのが、転籍要件の大幅な緩和です。技能実習制度では、実習先の倒産など「やむを得ない事情」がある場合を除き、原則として転籍が認められません。しかし、育成就労制度では、この転籍ルールが見直され「本人意向による転籍の導入」が一定条件下で認められることになりました。

しかし、3年間の育成就労期間のうち、多くの分野で2年間は転籍できない。さらに転籍できるといっても、試験合格、転職先の確保、書類手続きなど、実際に転籍を実現するハードルはかなり高いです。また人材紹介などの仲介業者が使えないため、外国人が自分で転籍先探すことは極めて難しいです。

転籍制限はせっかく外国人材を採用したのに、すぐやめてしまうと困るという企業側の気持ちを踏まえての措置だと理解できます。しかし、技能実習制度でも繰り返し指摘されてきた部分なのに、結局育成就労制度でも「転職できる」とはいえ、実際はほぼほぼ難しい状態のままになっています。実はこれは長期的な考えからすると、企業にとっても決して良いことではありません。「せめて2年間は辞められない」とわかっていることから、労働環境改善など「根本的な離職防止」に取り組む機会・動機を失われてしまうのです。

日本企業が向き合うべき課題

日本全国で人口が減り続け、労働力不足が加速することが、外国人材の活用拡大につながっており、今回の「育成就労制度」にもつながっています。しかし、日本企業も社会や制度の変化とともに変革をしなければ、結局労働力不足の根本的な解決にはつながりません。転籍制限が日本の労働環境の改善意欲を下げると上述しました。「外国人材受け入れと労働環境改善」がうまく結びつかない方も多いのではないでしょうか。まずはこちらのデータをご覧ください。下記図1のデータはみずほリサーチ&テクノロジーズの『外国人介護人材の転職状況に関する調査研究事業 』(令和6年度)から抜粋したものである。外国人材(介護)の転職理由の結果について企業側は「組織外の課題」を問題視している一方で、外国人材側は「企業の組織制度」により多くの関心を持っていることが分かります。

図1:受け入れ事業者と外国人材の転職理由についてのギャップ

図1:受け入れ事業者と外国人材の転職理由についてのギャップ

これは私の現場経験とも一致します。私は自治体の仕事で外国人の転職理由を調べる調査を実施して多くの企業やそこで働く外国人材とインタビューをしてきました。外国人材の転職が続いている企業の担当者に話を聞くと、「外国人は給与の高いところにすぐ転職する」という話をする一方で、外国人材は「企業内の制度や職場の人間関係に強く課題感」を持っているという双方の認識ギャップが頻繁に見られました。
そのような企業では、企業と外国人材のコミュニケーションが断絶しているため、外国人材の本音を知らないままに退職が繰り返され、企業側は「外国人はすぐやめてしまう」という印象だけが強く残り、組織の課題には気づいてないことが起きていました。つまり、なんども受け入れを続けてもまた辞めてしまう原因が残ったままの状態です。

さらに、外国人材側の関心の詳細を見ていくと、トップ5のうち1位を含めて3つがキャリアや成長に関わる項目となっていることがわかります。ここも日本企業が見過ごしている大きな問題であります。技能系の在留資格が技能実習か留学生の資格外活動が主流だった2019年までは、外国人材は、3年程度で母国に帰る人と認識し、人材側も企業側も中長期のキャリアを検討する必要はありませんでした。

しかし、2019年に特定技能が始まり、特定技能2号の対象範囲が始まり、さらに特定技能にシームレスにつながる育成就労制度が固まったことにより、技能人材も中長期、それこそ10年以上働き、現場の責任者になる道が開かれました。図2は当社が経年でとっている日本で就職を決めた特定技能介護人材のアンケートです。いまの企業に就職したいと決めた理由の1位は勤務条件や給与ではなく、キャリア支援などの成長支援の有無となっています。これは全国規模で調査した図1のデータとも結果がつながっていることがわかります。

図2:外国人材の企業選定理由(当社調査)

図2:外国人材の企業選定理由(当社調査)

中長期の戦力として外国人材を受け入れる準備

育成就労制度への転換は、日本社会が外国人材とどう向き合うかという根本的な問いを突きつけているかもしれません。「安価で使い捨ての労働力」という発想を捨て、外国人材を「長期にわたって社会を支える人材」として、適切に処遇し、育成する、この当たり前の原則が、ようやく制度に反映されています。しかし、理想と現実の間には大きなギャップもまだまだ存在します。

育成就労では人材育成の責任も、強化されていますが、特に中小企業では、むしろ育成就労と特定技能を明確に区別し、育成就労から特定技能へ向けた体系的な教育を行うことは難しいところも多いのではないでしょうか。しかし、この組織課題に向き合うことなく、育成就労もこれまでの技能実習と同様な活用をしてしまい、なんとか2年間は転職しないはずという考え方を続けると根本的な問題の解決にはつながりません。今後、日本人の人口が増え、採用課題や人材不足が自然とすぐに解決する未来が訪れることはない。だとしたら、せっかく採用した外国人材が組織内で長く活躍しキャリアを形成できるように労働環境を整え組織を変化させる方向にいますぐ向かうべきです。人材不足で悩む部分は現場作業だけでなく、実は現場責任者や中間管理職も年々足りなくなっていいます。ここで発想を変え、外国人材を現場からさらに責任者レベルまで対応できる人材として成長させることを意識すると、より重層的な人材確保と外国人材に対するキャリアビジョンの提供の両立が可能となります。
人口減少が加速する日本において、外国人材との共生は選択肢ではなく必然であります。もちろん企業だけでなく、監理支援機関、行政、そして外国人材自身が、それぞれの役割を果たし、制度の理想と現実のギャップを埋める努力を続けることが求められています。技能実習の廃止と育成就労制度の開始が、日本企業が外国人材とどう向き合うかのきっかけになることを強く願います。

政府開発援助の事業を中心に、過去20年間30か国以上で、コンサルタントとして産業開発、人材育成、保健医療、教育など多様な分野での事業実施経験をもち、2018年は外務省の政府開発援助に関する有識者懇談会の委員を務める。

国内では経済産業省の日本企業の新興国市場開拓補助事業や農林水産省の地方創生事業、厚生労働省「「地域外国人材受入れ・定着モデル事業」」の実施責任者を担う。「令和5年度 厚生労働省 海外からの介護人材の戦略的受入れのための有識者意見交換会」の有識者委員も務め、外国人材採用の領域において幅広い知見と経験を有する。

PERSOL Global Workforce株式会社 代表取締役社長 多田 盛弘(タダ モリヒロ) PERSOL Global Workforce株式会社
代表取締役社長
多田 盛弘(タダ モリヒロ)